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私がこのような会に呼ばれるのは、その会の「目的」に向け「結果」を出すためだと認識しています。

千葉県流山市からは、街づくりのワークショップなどでファシリテーターとして活躍されている後閑徹さんです。
今回は、実際にファシリテーターとして関わられた街づくりの現場についての事例を紹介していただきました。

 

 

 

Q.まず、あなたのことを教えてください。

 

後閑徹(ごかんとおる)です。FAJでは皆さんからゴンと呼ばれています。

街づくりのワークショップや組織開発(主に女性活躍推進)のセミナー

や執筆を行っています。

 

 

 

Q.今回、ファシリテーションの実践事例を紹介いただけるとの事ですが、

どのような実践をされているのでしょうか?

 

 

街づくりワークショップとして市長と子育て世代の意見交換会や、いわゆる嫌悪施設の建設計画をきっかけとした地域住民の皆さんの街づくり勉強会のファシリテーション、会議に問題のあるボランティア団体のファシリテーション等をしています。
今回は 、嫌悪施設建設計画をきっかけとした地域住民の皆さんとの勉強会の事例を紹介します。

 

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鉄道の駅の新設とともに出来たまだ開発途上の街中に、嫌悪施設の建設計画がもち上がり、市からの許可が下りてしまいました。

都市計画上の規制がなかったのが原因ですが、新住民の方たちには寝耳に水であったことから驚きをもって受け止められました。
「このままでは街中に風俗店がどんどん出店してくるかもしれない。何とかしなければいけない」ということで、建設予定地近くのマンション住民の方が呼びかけ人となって「街の将来を考える会」が発足しました。私はその会より勉強会の進行・ワークショップデザイン・ファシリテーションの依頼をされました。

 

 

場所の関係もあり40名の定員でしたが、定員を多く超える申し込みがあったと聞いています。参加者の中には、急激な地価の高騰に悩む地権者の方、駅前開発のために代替地に移られた方、子育て環境に恵まれた美しい街に惹かれて転入された方など年齢も立場も様々な方々がいらっしゃいました。この問題に関する考え方にしても、出店阻止の反対運動を起こそうという方も居れば、行政の許可が下りている以上出店阻止は無理だろうが条件闘争をしようという方、次の風俗店阻止のために何が出来るかを考えようという方、まだ何も態度を決めていないという方まで様々でした。

 

 

当該事業者の他の自治体での出店事例、裁判事例、行政がどこまで踏み込んでくれるか、申請の際の図面の入手、住民の声等、多くの情報が舞い込んでくる中、会の中心となる2名の方と会議を重ねました。ここでは書けませんが、「どうなるかは住民次第」というものもあり、そこにこちらから誘導しないよう注意しました。

参加者にかなりの温度差があることはわかっていたので、①反対運動の決起集会にはしない②ただし、考え方が同じ者同士で集まり話す時間をもつ、の2点を確認しました。
 

 

その上で、当日のゴールは以下に設定しました。
①参加者が街の将来像・イメージを共有している
②参加者それぞれの不安・事情が「見える化」されており、各自・各グループが何をするかを認識している

勉強会は都市計画とそのトラブルを専門に扱う弁護士のレクチャーと質疑応答で70分、その後ワークショップ・共有・意見交換が120分。情報が刻々と変化していくので、使用するスライドも当日朝に出来上がるという慌ただしさがありました。

 

参加者は会派を超えた市議5名を含む温度差のある40名なので、最初の場づくりの中では、「対話」の意味を強調しました。また、あまり意見が細分化しすぎないように設計をしました。最初から分裂していては、大きな運動にはならないし、そうすると運動の参加者の負担も重くなると考えたからです。もちろん、別の考え方もあるでしょうが、私の考えを主催者にも説明し了解を得ました。

 

 

手法はワールドカフェを採用しました。

様々な立場があることをお互いに理解し、方向性を合わせるには適していると考えたからです。

3つの問いかけをし、様々な立場の方の意見を共有した後に出された反対理由を休憩時間に壁に貼りだし、その後弁護士の方と一緒に一つずつ検討していきました。

「裁判では通用しない理由」「役所(行政)には通用する理由」「感覚的・感情的にすぎない理由」「感情的だが役所(行政)は動いてくれるかもしれない理由」といった感じです。これはとても良かったようです。専門家を交えながらの対話で冷静に自分のスタンスを見直し、決定することが出来て良かったとの感想を多く頂きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q.その結果どのようにあなたやその周りの人達が変わりましたか?

 

 

私は依頼者の要望・目的に応えなければなりません。
FAJの定例会では「楽しい」もかなり大切な要素として重視されているように思いますが、その数十倍、「結果にコミットする」ことを重視しています(もちろん、なるべく明るく、笑いが出るよう心がけています)。

また、そのためにも、始まったらともかく「場を見極め、柔軟に」という基本を心がけるようになりました。


FAJで良い仲間に恵まれたので知識・経験値は増えましたが、逆に自分のワークショップデザインは、重要な問いとそこへの導線を重視する極めてシンプルなものになってきたと思います。

これは学び始めた頃から一貫して変わっていないことですが、物事をファシリテーション起点で考えないということは常に心がけていることのひとつです。
 

私がこのような会に呼ばれるのは「ファシリテーションを実践する」ためではなく、その会の「目的」に向け「結果」を出すためだと認識しています。その中で、ファシリテーションがどこまで生かせるかを考えています。目的を取り違えるようなことがないように気を付けています。

 

 

毎回反省点はありますが、「楽しかった。こういう場ならまた出たい」という感想も多く頂け、励みになります。

しかし、その「楽しさ」は「意見を自由に言い合える楽しさ」「知見が広がる楽しさ」なのだと思います。

一方、参加者に温度差や考え、期待値にばらつきがある今回は、最初にゴール設定の理由や会の趣旨説明に時間をかけても、「反対運動の決起集会にすべきだった」「これでは反対派の集会だ」という真逆の声も少数ながら聞こえてきました。

理由がないと思う声も一度受け容れて振り返り、検証することで成長があると実感しています。

 

この勉強会からその後、景観・安全への配慮と将来を考え都市計画規制を求める陳情のための署名を集める会が発足しました。会は約2か月で1000名の署名を集め、陳情を提出。市議の方々の賛同を受け本会議にて全会一致で採択されました。今後は、住民の要望も含め、事業者と市が建築に関する交渉を行うことになっています。大きな成果のお手伝いが(ほんの少しですが)出来たと思っています。

 

 

Q.実践されている後閑さんが感じている「社会が求めているもの」を教えて下さい。そして、それにこれからどのように関わられていこうと考えておられるかなどあればお願いします。

 

 

同じテーマに関心をもつ人々が一堂に会する「場」が求められていると思います。対話を通じてこそ得られる情報、自分の問題意識や意見に対する周囲の反応、実感、納得、そして得られる繋がりetc. これらリアルの「場」で得られるものが次のステップに移行するための土台になるのではないでしょうか。皆さん、きっかけを待っているように感じます。

 

 

専門家のレクチャー後の休憩時間に、「俺はこんな講義を聞きに来たんじゃないんだよ。いま何が出来るかを知りたいんだよ」と声を荒げた方がいらっしゃいました。

「これからそれを考える時間になりますから」、と対応しましたが、ぐっと気が引き締まる思いでした。

周囲の方もそうではなかったかと思います。「熱」とは人に伝染し、人を動かすものだと思います。

そして、その「場」の理性と熱のバランスをとるのがワークショップデザイン、ファシリテーションをする者の役割と私は考えています。

いつまでも完璧はない作業ですが「最適解」を目指す努力はし続けようと思います。

その努力をし続けることが、ファシリテーターが「自分事」として問題に関わる、ということではないでしょうか。
まだまだ恥ずかしくて、自分では「ファシリテーターです」とは言えませんが・・。

 

(了)

 

後閑さん

後閑 徹(ゴン)

千葉県流山市在住

【プロフィール】
大学とアライアンスを組み大学内講座を開設・実施する企業にて講師・講師教育室室長(研修・育成 /戦略策定・実施)、大学講師等を経て、2014年9月に独立し、現在は、女性活躍、男女共同参画推進や自治体支援、街づくりなどの領域で活躍中。また、執筆活動もされており、人材・組織開発コンサルタントからの視点から発信されている記事は必見です。

http://sharescafe.net/author/gokantoru

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