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あるファシリテーターの1週間
FAJフェロー 徳田太郎

【コラム】

ファシリテーションのリアル

【コラム】ファシリテーションのリアルの第一回目は、日本ファシリテーション協会のフェローである徳田太郎さんの執筆です。タイトルは「あるファシリテーターの1週間」徳田さんのファシリテーターとしての日常を楽しく、そしてリアルにご紹介いただきました。

■月曜日:協働のまちづくりワークショップ

――今日は、「ファシリテーションのリアル」を知る一つの手段として、「ファシリテーターは1週間をどのように過ごしているのか」を伺おう! ということで、徳田さんにお越しいただきました。徳田さん、よろしくお願いいたします。
徳田(以下「徳」):よろしくお願いいたします。

 

――先週1週間の仕事ぶりをお伺いしたいのですが、まずは月曜日、どのように過ごされましたか?
:車で30分ほどの茨城県T市で、半日のワークショップでした。

この数年、「協働のまちづくりワークショップ」のファシリテーターを担当しているのですが、今年は「人と街をアートでつなぐ!市民ギャラリーの参加型イベントをつくろう」というテーマで、全7回の連続ワークショップを開催しておりまして、先週はその4回めでした。
――いわゆる「まちづくり系」のお仕事ですね。「アート」がテーマということで、なかなかハードルが高そうですが…。
:そうなんですよ。「人と街をつなぐのはアートではなくエンターテイメントだ」という人もいれば、「いや、それこそがアートだ」という人もいる。「市民を巻き込むことより、アートの質を下げないことが重要だ」という人もいれば、「私の創った作品を展示してほしい」という人もいて(笑)
――その日は、どんな感じでしたか?
:第1回・第2回のおさらいとして、「『人と街がアートでつながっている』イメージ」や、「イベントでもっとも大切にしたいこと」を改めてじっくり聴きあうプロセスを経た上で、第3回でアイデア出しをしたメイン・コンテンツ案を、みんなでちょっとだけ絞り込んでいただきました。おおむね4つの方向性に集約されるところまでたどり着きましたよ。

 

■火曜日:円卓会議~大学院での課題報告

 

――火曜日はいかがですか?
:午前中はつくば市民大学で円卓会議、午後は事務仕事、そして夜は大学院の授業でした。
――モリモリですね(笑) 順番にお伺いしてよろしいですか?
:つくば市民大学は、中央労働金庫と、私が代表を務める市民団体のコラボレーション事業として、2009年にスタートした「学びあいの場」です。サステナビリティ、ダイバーシティ、コミュニティの3つのテーマを掲げて、昨年は参加・体験型の講座を年間200回ほど開催しています。
――なるほど。その会議ということは、組織運営にファシリテーションを活かしていらっしゃるということですかね?
:その通りです。ただし火曜日は、市民大学そのものの運営委員会ではなく、「つくば発達障害キャリア支援ネットワーク」の円卓会議でした。つくば市民大学は「地域や社会の課題を自分たちで解決するための知恵を育んでいく」というミッションを掲げています。そのため、講座を開催するだけではなく、個別課題への実践にも取り組んでいるんですね。その一つが、発達障害者の就労支援事業です。官民16機関に呼びかけてネットワークを構築して、当事者向けのワンストップ相談会や企業向けの説明会などの事業を継続しています。
――火曜日は、どんなテーマでの会議だったのですか?
:その日の円卓会議は、先日開催した「大学のキャリア支援担当者と支援機関の情報交換会」のふりかえりが主なテーマでした。イベントを開催するごとにふりかえりを行い、それをその後の企画・運営に活かしているので、回を重ねるごとに確実に進歩している実感がありますね。

 

――で、夜の「大学院の授業」というのは?
:実はこの春から、都内にあるH大学大学院の公共政策研究科に通っておりまして。
――あ、仕事じゃないんですね(笑) ちなみに大学院の授業って、どんな感じなんですか?
:火曜日は「政策学研究」という授業でして、前半の90分は講義、後半の90分は、学生の報告を元にしたディスカッションです。ちょうど先週は、私が報告者でした。
――どんなテーマで報告をされたんですか?
:「熟議は政策の〈道理性〉を高めるか? ~熟議システム論によるアイルランド同性婚法制化過程の分析~」です。合理性(rationality)と道理性(reasonableness)は違うよね、ってところからスタートして、アイルランドの憲法改正過程では、ミニ・パブリックスとしての憲法会議と、賛成・反対両派によるキャンペーン、そして国民投票という一連のプロセスが政策の道理性を高めた―ということを、熟議システム論の分析枠組みによって明らかにしようというものです。
――あ、ごめんなさい。寝てました(笑)
:ぅおい!(笑)

■水曜日:大学の授業~講座打ち合わせ~出張へ

 

――さて、水曜日です。
:水曜日は、朝が早いんですよ。千葉県内のT大学での1限の授業に出講しなければならないので。
――お、今度は「学生」じゃなくて「先生」ですね?
:はい。担当しているのは、理学部の1年生を対象とした授業です。専門家(科学者)と一般市民との間に橋を架ける「サイエンス・コミュニケーション」の基礎を、体験を通じてマスターしようというものなんですけど。
――具体的に、どんな授業なんですか?
:寝ないでくださいね(笑) まず、学生が5~6人のグループに分かれて、それぞれ地球温暖化に関する何らかのトピックスについて教員にインタビューをします。たとえば、海洋酸性化が海の生物に与える影響とか、そういった専門的な内容です。次に、その内容を何らかの方法で高校生に伝えるプログラムを考えます。たとえば、1時間の出前授業をするとか、動画をつくってwebサイトにアップするとか。その一連のプロセスをサポートするのが私の役割なんです。
――なるほど、そんなところにもファシリテーションが活かされているんですね。で、その後は?
:都内のK区に移動しまして、社会福祉協議会で講座の打ち合わせをしました。最近、「ボランティア・市民活動のためのファシリテーション講座」の依頼が多くなってまして。
――事前の打ち合わせも重要ですよね。で、茨城にお帰りになると。
:いえ、この日は帰ってません。翌日の仕事に備えて、新幹線で山形県Y市に移動しました。
――そういえば、出張も多いですよね。

■木曜日:看護職向けの研修~雑誌原稿の執筆

 

――山形でのお仕事は?
:看護職の方々を対象とした、終日の研修でした。全国各地の看護協会や個々の病院など、看護師さん向けの研修の仕事は、すごく多いですね。
――なぜでしょう?
:もともと、カンファレンスや委員会など、会議が多いということもありますが、チーム医療や多職種連携において、看護職がキーパーソンになることが多い、という理由もありますね。
――なるほど。で、茨城にお帰りになると。
:いえいえ、残念ながらまだ家にはたどり着けず(笑) この日は埼玉県S市に宿泊でした。あ、そうそう、この日は新幹線とホテルで、雑誌原稿を執筆したんだった!
――どんな雑誌ですか?
:看護職の専門雑誌です。「頭が医療モードになっているうちに書いちゃえ!」ということで、一気に書き上げました。「『意見が活発に出る会議・ミーティング』への3つのステップ」というタイトルで、でも最後に「活性化すればいいってもんじゃないよね。沈黙を邪魔しないのもファシリテーションだよね」っていうオチがあるという。
――相変わらずひねくれてますね(笑)

 

■金曜日:行政職員向けの研修~公民館講座


――さて、金曜日です。埼玉では何を?
:県内各自治体の職員の方々を対象とした、終日の研修です。実は、仕事の中でもっとも多いのが、自治体職員研修なんですよ。
――もちろん、ファシリテーション研修ですよね?
:はい。ただ、「職場内での会議」を想定したものと、「市民を交えたワークショップ」を想定したものがあります。今回は前者でした。また、場合によっては、「地域担当職員研修」とか「協働のまちづくり研修」とか、コーディネーション的な要素が混じってくることもありますし、リーダーシップにフォーカスしたりすることもあります。「政策形成講師養成講座」のように、いわゆる「教育研修ファシリテーション」の領域になることもありますね。
――で、ようやくご自宅に帰れると。
:惜しい! その前に、茨城県T市の地区交流センター―昔の公民館ですね―で、19時から2時間の市民活動講座がありました!
――ハードですね…。
:毎年、秋はこんな感じになっちゃうんですよね。
――市民活動講座って、どんな内容なんですか?
:今回は全5回で、プロデュース力とか、コーディネーション力とか、プレゼンテーション力とか、もちろんファシリテーション力とか、とりあえず広く浅く学びましょう、っていう趣旨の講座です。大学生からシニアまで、またすでにバリバリ活動している方から、興味を持ち始めたばかりという方まで、年代も背景もバラバラなので、意外と難しいんですよね。(小声で)フィーは安いのに…
――ああ、言っちゃった(笑)

 

徳田 太郎 (かえるくん)

茨城県在住

1972年、茨城県生まれ。2003年にファシリテーターとして独立、市民活動や地域づくり、医療や福祉などの領域を中心に、年間200日以上のセミナーやワークショップを実施している。FAJでは、事務局長、会長、災害復興支援室長を経て、現在はフェロー。その他、東邦大学理学部生命圏環境科学科非常勤講師、Be-Nature Schoolファシリテーション講座講師、つくば市民大学(ウニベルシタスつくば)代表幹事など。現在、法政大学大学院公共政策研究科で「政策形成過程における市民参加と熟議民主主義」を研究中。

■土曜日:地域福祉推進プロジェクト会議


――いよいよ週末です。でも、徳田さんのようにフィールドがビジネス系じゃない場合、土曜・日曜も忙しいんじゃないですか?
:その通りです。予定は週末から埋まっていきます(笑) 先週も、茨城県H市で、地域福祉系の会議でファシリテーターをしておりました。H市では、中学校区単位で「コミュニティ」を構成しているのですが、そのうちの一つのコミュニティで、従来から活動していたサロンを地域福祉の拠点として再編しつつ、その取り組みをコミュニティ全域に広げていくための方策を考えていこう―という動きがあってですね。で、そのために、自治会や民生委員など住民の方々、行政や地域包括支援センター、社会福祉協議会の方々などで委員会を発足し、1年半にわたって検討を進めていくことになったんですね。で、2ヵ月に1回のペースで会議を重ねていくのですが、そのキックオフが先週の土曜日だったんです。
――プロジェクトにガッツリ関わっていくイメージですかね?
:まさにその通りです。

 

■日曜日:市民大学でのワークショップ~再び出張へ


――さて、最終日となりました。日曜日はどんなふうに過ごされましたか?
:ホームグラウンドであるつくば市民大学で、「男子、女子、そうでない人?」というテーマのワークショップでした。性別からダイバーシティを考えるプログラムなのですが、実はこれ、すでに何度か開催している「鉄板ネタ」なんですよね。
――あのぉ…。「男子、女子、そうでない人?」って、どっかで聞いたことがあるような…。
:そうです。三人合わせて、Perfumeです! よろしくお願いします!

 

かえるくん


――はいはい。わからない人にはGoogle先生に訊いてもらいましょうね。いやー、それにしても、幅広いですね。分野も、対象も、形態も。
:そうですね。いろいろな世界に触れることができるのが、この仕事の面白さですね。本当にありがたいことだと思います。あ、ちなみに日曜日は、ワークショップで終わりというわけではないんですよ。その後、月曜日からの行政職員対象の研修に備えて、宮城県S市に移動しておりまして…。
――本当に、区切りというものがないんですね…。今日はありがとうございました。
:こちらこそ、ありがとうございました!

 

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