top of page
​エピソードで語るファシリテーション
FAJフェロー ちょん せいこ

【コラム】

ファシリテーションのリアル

お待たせしました。【コラム】ファシリテーションのリアルの第二回目は、日本ファシリテーション協会のフェローである、ちょんせいこさんの執筆です。多くのファシリテーターの育成に関わってきたちょんさんから、現場のファシリテーターのエピソードを温かく、そしてリアルにご紹介いただきました。

■ファシリテーションは練習すれば上手になります

 ファシリテーションは技術だから、練習すれば上手になります。

 だから一緒に練習をしましょう。

  まるで呪文のように繰り返し伝えてきた言葉。この言葉に共感し、愚直な練習と実践を重ねた各地のファシリテーターから、様々なフィードバックをいただく。そして、「ほら、やっぱりそうだったでしょう。みんな、できるようになるよね」と、嬉しくなる。今回は、届いたエピソードから現場のリアルに向きあい、前へ進むひとりのファシリテーターの姿を伝えたい。

■ヘアサロンの会議にファシリテーションを取り入れたAさん

 

 「15年ぶりに離職票を書いていない」。そう語るのはヘアサロンを経営するAさんだ。毎年、新卒者を採用するが、職場定着が難しいのは美容業界全体の課題でもある。「何か方法はないか」と探していた時に辿りついたのが、ファシリテーションだった。

 気軽な気持ちで受講したセミナーだったが「これだ!」と確信したAさんは、とりあえず1年間、集中的に猛勉強。練習を繰り返して、ヘアサロンでの会議にファシリテーションを取り入れると決めた。とは言え、お店にはホワイトボードを置く場所がない。オシャレな空間に真っ白なホワイトボードは無粋でもある。とりあえず鏡にホワイトボードシートを貼り、リーダーを集め、情報共有と課題解決会議に取り組み始めた。

 手応えを感じたAさんは、2016年より、新人教育にファシリテーションを本格的に導入。まずは研修で意見の可視化を取り入れた対話を積み重ねた。5人の新人は、この春に学校を卒業したばかりで、コミュニケーションも決して得意なわけではない。でも、温かいファシリテーションで研修中に笑顔が溢れる心地良いスタートとなった。

 以降、定期的に新人との面談や目標管理にファシリテーションを活用。効果的な勇気づけや信頼関係をベースとしながら、時にはファシリテーターの服を脱ぎ、経営者として厳しい指導も進めてきた。そして5人の新人は、社会人として初めての冬を迎える。ヘアサロンにとって一番、スタッフの力が必要な繁忙期だ。

 「例年はこの時期までに、2〜3人の離職者がいる」と語るAさんだが、今年は離職者ゼロ。4月に比べると格段に接客にも慣れたスタッフとして、5人全員が今日もお店で働いている。ファシリテーターとして奮闘してきたAさんとスタッフみんなで力を合わせた嬉しい成果だ。

■業界を越えて広がるファシリテーション

 

 勿論、何もかもが一挙に解決したわけではない。お客様にご満足いただけるヘアサロンとしての経営努力はまだまだ続くし、これから先に離職者も出るかもしれない。

 しかし、もしそうだとしてもファシリテーションを活用して人材育成やチームビルディングを進めてきたAさんなら、「ここまで良く頑張ってきたね。あなたの強みはここだから、次の職場でも頑張ってください」と送り出せるだろう。なぜなら、ファシリテーションを駆使するプロセスで、Aさんは新人の強みやチャレンジの良き理解者となりえているからだ。社員にとって、自分の成長に伴走してくれる上司は、心強く、エンパワメントな存在だ。

 そんなAさんの夢は美容業界にファシリテーションを広げること。ディーラーの協力を得ながら、同業者を対象としたセミナーもスタートした。スタイリングや接客と同じように、ヘアサロンでもファシリテーションの技術練習が広がって、お客様やスタッフが明るく元気になるお店が増えてほしい。Aさんの新しいチャレンジは始まったばかりで、そんなAさんを応援するのが私の仕事であり役割だ。

 業界を越えて、広がるファシリテーション。

 人やまちが元気になります。ぜひ、一緒に練習をしましょう。

ちょん せいこ

大阪府在住

株式会社ひとまち代表取締役。「ホワイトボード・ミーティング®」という手法を確立し、 議論を可視化しながら活性化し、質の高い成果につなげる活動を積極的に展開している。
ビジネスからボランティアまで、幅広い領域のファシリテーター養成に取り組む。
特に学校教育分野において先生や児童・生徒がファシリテーターになる取り組みを続けている。
著書:・ちょんせいこのホワイトボード・ミーティング
・ファシリテーターになろう! ―6つの技術と10のアクティビティ―
・元気になる会議〜ホワイトボード・ミーティングの進め方

ちょんさん

bottom of page