top of page

カンファレンスの質を上げるグラフィックのパワーを定着させたい。

事例紹介の第三弾は、C3カンファレンス にグラフィッカーとして関わった大嶋友秀さんにお聴きます。

グラフィッカーは、会議やワークショップの内容やプロセスが参加者に見えるよう、紙に描いていきます。
Change by Creative Collaboration (創造的な協働による変革)を目指したイベントで、グラフィッカーはどのような役割を果たしたのか、大嶋さんに伺いたいと思います。

Q. 日本ファシリテーション協会(以下、FAJ)の会員であり、近年ではファシリテーションの場にグラフィックを活用することに精力的に取り組まれているぷーさんですが、あらためて自己紹介をお願いします

ぷーさん(以下、P) 2002年にFAJに加入。東京支部運営委員(2003~2006)。現在、ニューズレター委員副委員長(編集チーフ)。仕事は、研修講師であり、会議やワークショップのファシリテーター、およびビジュアル・プラクティショナー(グラフィック・レコード、グラフィック・ファシリテーション)です。あと、ファシリテーションをグローバルな場面で使うことにも関心があり、現在IAF(国際ファシリテーターズ協会)のメンバーでもあります。FAJでのニックネームはぷーさんです。

Q. ビジュアル・プラクティショナーという言葉は、初めて聴きました。

 

ビジュアル・プラクティショナーとは、グラフィックを扱う人は、全てこの範疇に入ります。その中で、グラフィック・レコード(以下、グラレコ)とは、会議やワークショップを外から眺めてそれをビジュアル化していく方法です。プロのグラレコは、内容もさることながら見た目にも美しいです。グラフィック・ファシリテーションとは、グラフィックを使って会議やワークショップのファシリテーションをする場合のことで、グラレコのように話し合いやワークショップの外側にいるのではありません。

 

Q. 今回紹介いただける事例(C3カンファレンス)にどのように関わったかについて教えてください。

 

確か、修羅さんにお声かけをもらったと記憶しています。C3カンファレンスに、FAJとして企画協力をしている中で、グラレコをメインのセッションでやってくれないかと打診をいただきました。ぜひ、そんな機会ならば、やらせてもらいますよ、とお答えしました。他にもオープンジャム設営の手伝いなど、ボードにグラフィックを描くようなお手伝いもしました。

Q. グラレコに関わることになった経緯を教えてください。
 

数年前に、シンガポールで開催されたIAFのアジア大会に参加した時のことです。シンガポールのプロのグラフィッカーが、大会のセッションをレコーディングしたのを見て、ものすごく驚きました。ワークショップのセッションが、美しい絵となって描かれていたからです。それは、私たちが「ファシグラ」と呼ぶ、スクライビング(言葉を中心に書いていく手法で、板書とかファシグラと呼ばれる技法)とは次元の違う技を目の当たりにして、ぜひこれをやってみたいと自分で独学で始めたのがきっかけです。

Q. グラレコについても、私はぷーさんが執筆されたFAJのニューズレター(FAJの会報)の記事で初めて知りました。

グラレコとは、会議やカンファレンスの様子を、ビジュアルを使って見える化することです。簡単に言えば、セッションの様子が綺麗な絵になって、誰が見てもその場の雰囲気やキーワードがわかるような技法のことです。

 

Q. ぷーさんは、グラレコについて独学されたとのことですが、どのようにトレーニングされたんですか?

 

本を読むことで、どんなものか理論に触れて、FAJのなどのワークショップの時に実際に描いてみました。また、綺麗なグラレコなどがあれば、それはどう描かれたのか、ポイントはどこなのかを読み込んで行ったり、それを真似して見たりして描いてみるのも良い練習になります。�

 

視点の違う2つのグラフィックで記録する

Q. 今回、グラフィッカーとして心がけられたこと、工夫されたことなどは、どんなことがありましたか?

 

ひとつは、今回のC3カンファレンスでは、私以外のもう一人のグラフィッカーがいたので、どういう風に描き分けるかを話し合いました。私はキーノートスピーカーの言葉などを丁寧に書きとって描いていくこと、そしてもう一人のグラフィッカーは、全体をざっくりとした視点でビジュアルを重視して描くという作戦を立てました。

 

Q. 役割分担をされたんですね。二人が共同で一つのグラフィックを仕上げる感じでしょうか?

 

いいえ、二人は同じ対象(メインセッション)をそれぞれグラレコに表現していきました。描くときのポイントを、それぞれを分けました。私は内容を細かく追っていく、そしてもう一人の人は話者の発言よりも全体のイメージをとらえられるような役割でした。

 

Q. なるほど。視点の違う2つのグラフィックが出来上がるわけですね。

もうひとつの工夫は、事前準備をできるだけしました。ファシグラのような、言われていることをどんどん書いていくスタイルと違い、全体のカギになる言葉やイメージを効果的に現場でひろうためにも、事前にできるだけの準備をするのは大切だと思っています。二日間、二人のキーノートスピーカーの著作を何冊か読むことから、ネットで最近のニュースや動向を調べたりして、どんな話になりそうかを勉強していました。

参加したセッションをビビッドに思い出せる〜ビジュアルエイド

Q. ぷーさんは、今回の経験でどのような感想を持たれましたか?

グラレコが今回のようなカンファレンスや会合でこれからますます重要になっていくという実感を持ちました。また、それと同時に、このような手法をビジネスとして定着させていくことが挑戦的でもあると感じました。

Q. 「ビジネスとして定着させていくこと」については、今後どうしていくべきなんでしょう?

グラレコだけで仕事をするというのではなく、ファシリテーションも含めどんな場を作るのかなどを、パッケージで有償にしていくことが大切だと考えています。あと、安易に無料でやらないことは重要です。無償でやる場合は、それぞれにしっかりとしたその理由がないと、ビジネスにする機会を失うと考えます。

 

Q. 今回、ぷーさんが目指されたことはどんなことだったでしょうか?

私が担当したグラレコが、参加した人の単なるビジュアル的に面白いお土産でなく、その内容への理解やその内容をその場にいない人に伝えていくために役立つビジュアルエイドを提供することでした。

 

Q. グラフィックがビジュアルエイドたるために重要なことはどんなことでしょうか?

 

グラフィッカーがよく話を聞いて、そのポイントを描くことです。グラフィック・レコーディングは、セッションの途中ではなく終わってから見られたり、活用されたりします。そのために、参加したセッションがビビッドに思い出せることであるのが大切です。

 

Q. ぷーさんが目指したことはどれくらい達成されましたか?達成された要因はなんだったでしょうか?

オープニングセッションの現場だけでなく、描いたものがオープンジャム(と呼ぶ参加者が集う空間)に展示されました。そのことで、セッションの内容を思い出したり、それを見ながら話し合うような場を作ることがある程度達成できたと思っています。

 

Q. まさにビジュアルエイドですね。

 

達成の要因は、単純ではなくいろんな要素が混じり合っていると考えています。例えば、主催者側が、FAJとのコラボを決めたことから、グラレコを採用したり、そのグラレコをまたオープンジャムで見たりと、その場を作る人たちが、グラフィックだけでなくいろんなリソースをできるだけ有効に使おうとした結果といえるでしょう。

 

Q. 今回ぷーさん的に達成できなかったことってありますか?

 

私が担当したところに限定すれば、オープニングセッションのグラフィックレコーディングの美しさをもっと追求したかった。それは描き手の技量の未熟さもあると思います。まだ勉強中の立場でもありますから。ただ、ファシグラと呼ばれるものと違って、ビジュアルプラクティスと言われるグラフィック・レコーディングやグラフィックファシリテーションは、そこには参加者が声を上げるような画力やデザイン力が必要だと思います。そこは今後の勉強により追求していきたいと考えています。

​カンファレンスや会合の質を上げるためのグラフィックのパワーを!

Q. 今回の経験で学んだことを教えてください。

グラフィックレコーディングをやるから、グラフィックのことだけを考えればいいのではなく、その場がどのような場になるかを考えた上で、グラフィックの持つ役割をしっかりと認識することが、描くにも大切だと改めて感じました。

 

Q. これから同様の経験をする後輩グラフィッカーがいるとしたらどんなことをアドバイスしますか?

 

言葉を追いすぎないこと、果敢にダイナミックにビジュアルを表現すること、懸命に描けば、大きな失敗にならないと自分を信じて思い切ることも重要です。それに、事前にできる限り情報を仕入れ勉強しておくこと、そして何よりもその場をグラフィッカーとしても楽しむことでしょう。

Q. 力強いアドバイスをありがとうございます。

グラフィック・レコーディングやグラフィック・ファシリテーションは、欧米で盛んでした。プロでビジネスにしている人も圧倒的に、欧米が多いです。しかし、このところ、アジアが熱くなってきています。特にシンガポールを中心に、ビジネスとして成功しているビジュアルプラクティショナーが集まっています。日本でもグラレコという言葉が出てきて、イベントやカンファレンスの機会に、グラフィックを描く人が出てくるようになっています。しかし、それがビジネスになるかはこれからの課題だと考えています。単なる綺麗だから参加者が記念に写真を撮るものから、内容を理解してそのカンファレンスや会合の質を上げるためのグラフィックのパワーをどう認識して、また、どう定着させていくのか。今後が面白い展開だと思います。

Q. 貴重な事例紹介をありがとうございました。

大嶋 友秀 (ぷーさん)

東京都在住

ぷーさんのニックネームからもわかるように、明るくてやわらかな印象の大嶋さん。笑顔が魅力的な紳士である。実はマインドマップの達人であり、トーストマスターズのスピーチで賞を獲るツワモノでもある。また、その読書量もかなりのもの。
様々な才能を発揮する大嶋さんは、たくさんの顔を持つスーパーぷーさんなのである。

 

​大嶋友秀さんのオフィシャルブログ

大嶋さん

bottom of page