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フェロー対談 森 時彦 氏 × 中野 民夫 氏 (第1回)

何をしたいのか? 

そこから始まるファシリテーション

FAJが誇る名ファシリテーターである森時彦さんと中野民夫さん。2011年のFA会報誌『ニューズレター』紙上に掲載された豪華対談を4回に渡り連載いたします。

二人のファシリテーションのスタイルはまるで異なります。初の顔合わせとなったお二人の考える「ファシリテーションとは?」をテーマにお話が進みました。あの対談から5年、今現在のおふたりからのコメントもいただく予定です。どうぞお楽しみください。

編集部:まずはお二人に、ファシリテーションに興味を持たれたきっかけから教えていただけますか。

 

森 :私は、仕事で取り組まざるを得なくなったというのが本当のところです。1995年頃、働いていたGEの中でいきなり実務の中でファシリテーションを行う側に放り込まれました。「これは、すごいな」と思いましたね。他にも、部下の評価をする際、私が優秀だと考える日本人の部下が、私の上司のアメリカ人の評価は私より2段階も低かったのです。アメリカ人や中国人、ドイツ人などの評価は違わないのに、優秀な日本人だけが大きくずれるのです(ダメな日本人社員の評価は違いませんでした)。

その日本人の部下は、他の評価の高い人間よりも経験豊富で仕事をよく知っていて、自分で仕事をどんどん進められる人なのですが、周りの外国人から「なんで一人で勝手にやっているんだ」ととらえられてしまうのです。評価が低いのは言葉の問題とかじゃなく、ファシリテーティブなリーダーシップが不足しているということだったんですね。

「これはきちんと日本人にファシリテーションのトレーニングをしなければ」ということで、教科書を書こうと思いました。ところが、書き始めた頃に堀さんの『問題解決ファシリテーター』(東洋経済)が上梓されたんですね。それで「これはもう書かなくてもいいや」ということで(笑)。そういった背景で、私はビジネス面からファシリテーションに入っていったわけですが、中野さんの場合は少し違いますよね。

 

中野:そうですね、私の場合は平和とか環境問題について取り上げる場面が多く、ファシリテーションの道に入ったのもワークショップからです。ワークショップという学びのスタイルがすごいな、と。頭の理解だけじゃなく、からだや気持ちも含めた、全人的に鼓舞されるようなものがワークショップにはあって、それを運営している人をファシリテーターと言うことを知りました。

1989年~1991年くらいに、環境のことなど勉強したいと休職してアメリカのサンフランシスコにあるCIIS(カリフォルニア・インスティテュート・オブ・インテグラル・スタディーズ」という、統合ということを大事に考えている大学院に留学しました。そこでODT(オーガニゼーショナル・デベロップメント・アンド・トランスフォーメーション」という学科に入学したのですが、これまでの既存のビジネスの発展だけでなく、トランスフォーメーション(変容)を促していこうという時に、そこの学生たちはオーガニゼーショナル・コンサルタント、つまりはファシリテーターとして組織変革をサポートしたいと考える人が多かったようです。

そこはインドの哲学者が開設した大学で、東洋と西洋の融合、スピリチュアリティと現実との統合、心理学などを学ぶことが中心となっており、昔ヒッピーだったようなおもしろい先生もたくさんおられました。「トーキング・スティック」というものを教えてくれたハワードという先生とは今も交流があり、昨年、訪ねた時に彼の書斎に『アイ・アム・ザット』という本があったので、どういう意味か尋ねると、「私がその人である」ということらしいんです。例えば被災者のことを考えるときに、他人事じゃなく自分が被災者だったかもしれないと思うことで、ある種、慈悲の心を育てるような考えをベースに展開している本らしいのですが、とても印象的でした。

そういうことが、私のファシリテーションの根本にはあって、同じアメリカで最初にファシリテーションに触れたのに、森さんと私とでは相当、違った入り方でそれもおもしろいですね。

ファシリテーションとの出会い

日本でのファシリテーションに欠けているものは

編集部:海外、特にアメリカなどでは、大学でそんな風にファシリテーションのスキルを学ぶものなのでしょうか。

 

森 :大学どころじゃなくて、もう幼稚園、小学生のときからですよ。学ぶというより、体感していると言った方がいいでしょう。例えば、「きょうは●●ちゃんの誕生日だから、みんなで、『●●ちゃんはここが素晴らしい』といいところを教えてあげよう』と先生がファシリテートする。そういう素朴な経験を通じて、自ら観察して、自分の頭で考え、意見を言い、またまったく違う考えを持つ人の話を聴くという訓練を積むわけですね。同時にチームにそうさせる方法を学ぶのです。

 

中野:私が驚いたのが、娘がアメリカでプレスクールに行っていた時に、林間学校のようなものがあって親子で参加したのです。しかし、雨が続いたために、屋外で遊べなくて室内で遊んでいた子どもたちが窓ガラスを割ってしまったんですね。それで、割れたガラスにどう対応するかということで、全員で集会をするんです、3~4歳の小さな子どもから、お兄ちゃん・お姉ちゃんの10歳くらいの子どもも、親も含めて。それで、女性の園長先生が司会をして、「割った子どもの親が弁償したらいい」とか「コミュニティの問題だからみんなで均等に負担しよう」とか、みんなが対等に意見を言い合うわけです、大人も子どもも。それで、結局は一度カンパでお金を集めてみて、足りなかったらまた話し合おうとなったのですが、一回で希望額に達したので、「以上、終わり」になっちゃったんです。「大人も子どもも一緒にやるなんて、すごいな」と思いましたね。

 

森 :3歳の子どもも、そこでちゃんと考えられる機会を与えられるわけですよね。「親がいるから」としてしまうと、子どもは思考停止になってしまう。「聴く」ということと「表現する」ということが、幼い時から訓練されているのです。

 

編集部:訓練するというより、毎日の生活の中に常にあるというイメージですね。ますますグローバル化が進む世界で、ファシリテーションのスキルは文化的な差異を乗り越える切り札になるのでしょうか。

 

森 :「切り札」になるかどうかわかりませんが、「これが正解だ」と決めつけたり、「オレはよく知ってるから、これはこうしよう」というアプローチは海外では通用しないことが多いですね。全員にわかるように問題を提起し、知恵を出させて、そこからある答えをタイムリーに引き出していくというアプローチは、国籍を超えてチーム全員の納得性が得られます。そこでは知識だけではなく、思考のプロセスを提言する力が問われます。しかも、理性だけでなく心の問題も含まれてくる。感情的に反発している人はそういう場に参画できないわけで、メンバーの感情も含めた部分で捉えないとうまくいかないんですよね。日本語で言うと「場づくり」ということになるのでしょうが。

 

編集部:日本の会社なり組織って、会議で発言しない人・関わろうとしない人っていますよね。FAJだとうまくいっても、自分の会社でそれを実践しようとすると非常にハードルが高いと感じます。

 

森:そもそも知恵を出そうとする会議が日本はとても少ないですよね。単なる報告会になっているから、「異議なし」で終わっちゃって、元々ファシリテーターなんて必要じゃない。会議のためのアジェンダも提出がぎりぎりだったり、なかったりする。ある会社の人事部門の方からファシリテーションの講演を頼まれて、これまでも2人くらいにお願いしたけれどうまくいかなかったとおっしゃるんです。それで、「何がやりたいんですか?」と聞くと、「ファシリテーションを導入したいんです」と言われる。「ファシリテーションを導入して、何をやりたいんですか?」とさらに突っ込むと、「えっ?」となって答えられない。“何のために”ファシリテーションをやるのか?が抜け落ちていると、いくら導入してもうまく回らないでしょう。「売り上げを上げたい」とか、「コストを削減したい」「労働時間を短縮したい」というような具体的な課題です。

私が関わった会社で非常にうまくいったところがあるのですが、そこでは研修とはいえ、具体的な業務の効率化を課題に設定してもらいました。研修効果を数字で計測できるようにしてもらったのです。その後4年ほど活動を続けていらっしゃいますが、毎年10%程度の利益アップに成功しているそうです。先日近況を伺ったところ、2つのグランドルールが効果的だったとのことです。1つは「このプロジェクトでは上下関係は関係ない。何を言ってもいい」で、もう1つは「できないと言わない」ということだそうです。もう一つ重要なことを話していました「きれいなファシリテーションをしようとするのではなく、結果を出すことに拘る」です。

 

中野:今のお話のような内容が、森さんの著書『ザ・ファシリテーター』(ダイヤモンド社)にはで出てくるわけですが、この本は小説仕立てですよね。文章お上手ですが、小説を書こうとは思われませんか?

 

森 :それは、さすがにないですねぇ(笑)。架空の話を書くのは難しい。先ほど申しましたように、堀さんの『問題解決ファシリテーター』(東洋経済)というとてもよくできた本が先に出たので、部下のために教科書を書く必要がなくなりました(笑)。しかし、現場ではもっととんでもない話が出てきます。教科書では書ききれないものがある。それをいくらかでも織り込んだものが必要だと気付きました。コンテクストですね。それによって方法はずいぶん変わる。そう思っていた時に本棚にあった『ザ・ゴール』という本に目が留まりました。ファシリテーションこそ小説形式で表現する必要があると気付いて、「ザ・ファシリテーター」という小説モドキを書いたわけです。(つづく)

次回は、、、

森 時彦

㈱ワイ・インターナショナル、代表取締役社長

㈱リバーサイド・パートナーズ、シニア・アドバイザー

チェンジ・マネジメント・コンサルティング代表取締役
BBT大学客員教授/日本工業大学大学院客員教授
/NPO法人日本ファシリテーション協会フェロー

大阪大学卒業後、マサチューセッツ工科大学(MIT)へ留学。
神戸製鋼所を経て入社したGE (ゼネラル・エレクトリック)では製品開発から事業企画・営業まで、様々な組織のリーダー、日本GE役員などの要職を歴任。
その後、テラダイン(日本法人)代表取締役を経て、株式会社チェンジ・マネジメント・コンサルティングの代表取締役として組織活性化に携わるかたわら、2007年からは中堅企業の成長促進による価値創造をビジネスモデルとする投資アドバイザー会社・株式会社リバーサイド・パートナーズの代表パートナーに就任。
著書に『ザ・ファシリテーター』『ザ・ファシリテーター2』『ファシリテーターの道具箱』『セルフ・ファシリテーション』『プロフェッショナルファシリテーター』 他

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中野 民夫

ワークショップ企画プロデューサー。東京工業大学教授(来春発足するリベラルアーツ研究教育院)1957年東京生まれ。東京大学文学部卒。株式会社博報堂に30年間勤務。大阪の営業から始め、1990年前後に休職・留学したカリフォルニアで、組織変革や環境や平和の分野で様々なワークショップに出会い、研究を始めた。復職後は、企業の社会貢献活動や愛知万博の地球市民村(NGO Global Village)など社会テーマ系の仕事に従事。一方個人で、人と人・自然・自分自身をつなぎ直すワークショップや、分野を超えて参加型の場づくりを学ぶファシリテーション講座を、Be-Nature Schoolなどで実践。2012年に早期退職して京都の同志社大学の教授に転身、大教室での参加型授業を展開。15年秋から教養教育による東工大の改革をめざすリベラルアーツの動きに参画。主著に、『ワークショップ』『ファシリテーション革命』『みんなの楽しい修行』など。公益社団法人日本環境教育フォーラム理事、FAJフェロー

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