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フェロー対談 森 時彦 氏 × 中野 民夫 氏 (最終回)

何をしたいのか? 

そこから始まるファシリテーション

FAJが誇る名ファシリテーターである森時彦さんと中野民夫さん。2011年のFAJ会報誌『ニューズレター』紙上に掲載された豪華対談を4回に渡り連載いたします。

あの対談から5年、今現在のお二人から、それぞれの現場での活動や感じられているをコメントいただきました。連載の最終回は森さんのコメントです。どうぞお楽しみください。

経営におけるファシリテーションのスキルとマインド 森時彦さん

 まりさんからの依頼のおかげで4年前の中野さんとの対談の記録をあらためて読み直す機会を得ました。中野さんが考えていらっしゃることについての理解が進み、私にとってとても貴重な対談だったと感じています。4年という時間は自分を客観視するいい期間だと思いますが、今の時点で見て、何も違和感を覚えることはありません。進歩していないということかもしれませんが。あえて一つあげると、私の発言が「欧米の人はみんなファシリテーション力がある」という印象を与えているかもしれないということです。日本もそうですが、海外にもいろいろな人がいます。むしろ他人のことは気にせずガンガン自己主張をするだけの人も少なくありません。言いたかったことは、そういうパワフルな主張に押しまくられず、フェアな議論を展開するファシリテーション力のある人が日本に比べて多いということです。

対談をふりかえって

社長としての日々

 さて、縁あって、私は7月からY’s Roadという屋号でスポーツサイクル専門店を多数展開しているワイ・インターナショナルという会社の社長を始めました。しかし、私はツール・ド・フランスのようなロードレースやトライアスロン、オフロードなどのレースで使われるスポーツ用の自転車についてはまったくの素人です。そういう自転車に関する経験や知識で組織をリードすることはできません。頼みの綱は、企業経営に関する知識と経験であり、その重要なスキルの一つにファシリテーションがあります。この機会にその一部に触れてみたいと思います。

 私は2年ほど前からこの会社の非常勤の取締役をしており、店長が全員集まる会議について、一方的な報告型からもっとインタラクティブなものにした方がいいというアドバイスをしていました。そうすると「○○についてどうしたらいいですか?」と数十人の参加者に問いかけ、いろいろ意見はでるのですが、まとまらない会議になってしまっていました。それでも以前より、時間が短くなり意見も聞けるようになって良くなってはいたのですが、まとまらないのでは力になりません。

 そこで、店長会議とは別に、数人の店長さんに集まってもらって店舗コンセプト道場、店ごとに店舗運営道場といった少人数の中身の濃いミーティングを始めました。少人数にすることで議論の中身が濃くなり、選択肢が絞れてきます。こういうところで出てきたアイデアを最終的に店長会議のような場で、みなさんの了承をとるようにしています。これで店長会議は時間的にはさらに短く、中身は濃いものになってきました。

「道場」では、少人数にするだけでなく、事前にデータをしっかり分析し、それを持ち込むことで過去の経験や思い込みに囚われない議論を促すことができるようになってきました。たとえば「需要が落ちている」「○○はできない」といった意見が大勢を占めるときでも「他店舗では需要は落ちていない。売れ筋の在庫を切らしていますね」「○○で成功しているところがあります」とデータを見せることで、「そういえば…」と議論の流れが変わり、前向きな議論ができるようになりました。データの力、恐るべしです。

 毎週行っている幹部ミーティングもアジェンダを変えることで、コミュニケーションがよくなり、建設的な議論ができるようになってきました。一つ例を紹介すると、毎回はじめに6か月先までの全社のスケジュールを共有する時間を10分程度設けるようにしました。重要なイベントや新規出店のスケジュールを記したカレンダー状のものをエクセルで用意しておき、それを見ながら、その場で変更などを確認して書き換えていく。たったこれだけで「それは知らなかった」ということが激減しました。

 各店舗では、朝礼・終礼が行われているはずですが、詳しく見ていくとちゃんとやっているところとなおざりになっているところがあることに気づきました。業績の良い店ではしっかりとした朝礼が行われていますが、この「基本動作」とでもいうべき朝・夕のミーティングを疎かにしている店舗は業績も悪い。

朝礼・終礼はチーム力を高めるために不可欠の活動です。ラグビーやサッカーなどのチームスポーツで試合前にミーティングを行い、ゲーム終了後に集まって話し合っているのはこれと同じです。ここで目標と段取り、役割分担を確認し、カイゼン活動に取り組む。チームスピリットを高める活動をする。こういうことが全店でできるように活動を開始しました。

 社長というポジションは、高いレベルから物事を見る事ができる一方で、細部が見えなくなります。そこで創業者の吉田さんという人が行っていた社長と話そうというミーティングを復活することにしました。創業者というものはいろいろことを考え、良いことをたくさん行っているのですが、それが時間の中で忘れられていたり、形だけになっていることが少なくありません。これはそのいい例です。「社長と話そう」には店長は出ない。副店長以下、店舗横断型で一般の店舗スタッフに数名集まってもらって自由に思っていることを語ってもらう。ここでのグランドルールは「無礼講」です。何を言っても構わない。あとは傾聴スキルを駆使して聴いてあげる。たったこれだけのことで、驚くほど本音を聞くことができます。質問も出るので、こちらが伝えたいことも手ごたえを感じながら伝えることもできます。ただこのミーティングは私が聴くことが目的なので、話し過ぎないように、傾聴を意識して耳を傾けるようにしています。

 この他にも、日々の会議や立ち話から役員会議、株主会議とあらゆる場面でファシリテーションのスキルとマインドは大活躍です。

ファシリテーションのスキルとマインド

第3回
おすすめ書籍

森 時彦 

「営業が弱い」「新商品が生まれない」など、“結果”の出ない組織の問題点は共通だ。悪癖と化した「組織行動」が、成功を妨げている。組織的機能不全・健忘症・うつ病といった「組織の生活習慣病」をどう克服するか? 組織行動力を高め、リーダー人材を培い、メンバー全員を活性化させる。組織変革のための実践的方法論!

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森 時彦

㈱ワイ・インターナショナル、代表取締役社長

㈱リバーサイド・パートナーズ、シニア・アドバイザー

チェンジ・マネジメント・コンサルティング代表取締役
BBT大学客員教授/日本工業大学大学院客員教授
/NPO法人日本ファシリテーション協会フェロー

大阪大学卒業後、マサチューセッツ工科大学(MIT)へ留学。
神戸製鋼所を経て入社したGE (ゼネラル・エレクトリック)では製品開発から事業企画・営業まで、様々な組織のリーダー、日本GE役員などの要職を歴任。
その後、テラダイン(日本法人)代表取締役を経て、株式会社チェンジ・マネジメント・コンサルティングの代表取締役として組織活性化に携わるかたわら、2007年からは中堅企業の成長促進による価値創造をビジネスモデルとする投資アドバイザー会社・株式会社リバーサイド・パートナーズの代表パートナーに就任。
著書に『ザ・ファシリテーター』『ザ・ファシリテーター2』『ファシリテーターの道具箱』『セルフ・ファシリテーション』『プロフェッショナルファシリテーター』 他

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中野 民夫

ワークショップ企画プロデューサー。東京工業大学教授(来春発足するリベラルアーツ研究教育院)1957年東京生まれ。東京大学文学部卒。株式会社博報堂に30年間勤務。大阪の営業から始め、1990年前後に休職・留学したカリフォルニアで、組織変革や環境や平和の分野で様々なワークショップに出会い、研究を始めた。復職後は、企業の社会貢献活動や愛知万博の地球市民村(NGO Global Village)など社会テーマ系の仕事に従事。一方個人で、人と人・自然・自分自身をつなぎ直すワークショップや、分野を超えて参加型の場づくりを学ぶファシリテーション講座を、Be-Nature Schoolなどで実践。2012年に早期退職して京都の同志社大学の教授に転身、大教室での参加型授業を展開。15年秋から教養教育による東工大の改革をめざすリベラルアーツの動きに参画。主著に、『ワークショップ』『ファシリテーション革命』『みんなの楽しい修行』など。公益社団法人日本環境教育フォーラム理事、FAJフェロー

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