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介護×ファシリテーション


「つながる」コラム第一弾! 「介護×ファシリテーション」をテーマに、記念すべき初回は、日本ファシリテーション協会(以下FAJ)フェローである鈴木まり子さんへ、インタビューしました。

鈴木さんは、お父様が50代後半で倒れ、半身麻痺になり、2011年に亡くなるまで、25年間介護した経験をお持ちです。そのため「介護・福祉・医療」の分野には思い入れが強く、ご自身の実体験そのものをファシリテーションとリンクさせて活動しています。

そんな鈴木さんに、オープンFAJスタッフのつなぎ隊※1が「介護×ファシリテーション」について伺ってみました。

※1つなぎ隊

このオープンFAJのイベントに乗じていつのまにか勝手に出来上がったオープンFAJスタッフ有志。日夜現場で奮闘しているファシリテーター達を応援し、自身も切磋琢磨しながら、ファシリテーションの良さを伝えていく仲間です。ゆるく隊員を募集中。

つなぎ隊:

こんにちは。鈴木さん。ニックネームはちびまりとのことですが、ちびまりと呼んだほうがよろしいでしょうか(笑)

ちびまり:

はい、ちびまりでお願いします(笑)

つなぎ隊:

では早速(笑)、ちびまりは、これまで多くのファシリテーションに関する経験がありますね。そもそも、ちびまりがファシリテーションを実践するきっかけは何だったんでしょう?

ちびまり:

以前は人事コンサルティングのマネージャーをしていたので、会議や研修などファシリテーションの実践の場は頻繁にありました。

もっと遡ると、私が子どもの頃から、ボランティア活動に熱心だった父が中心となり毎晩のように自宅で会議をしていて、私は会議に参加していた大学生の膝に座って話し合いを聞いていたそうです。ですので私がはじめて出会ったファシリテーターは父親でした。

その後、10~20代になると、ボランティア活動や仕事を通じて、会議やワークショップの場数を踏んでいきました。ある日、部下から「まり子さんがいつもやっていることが書いてありますよ」と1冊の本を紹介されました。

中野民夫さん(FAJフェロー)の「ファシリテーション革命(岩波書店)」でした。その本の「はじめに」の内容に共感し、中野さんが開催している連続講座に参加したことが転機で、気がつけばファシリテーターを仕事にしていました。

つなぎ隊:

ではこれまで、ちびまりのファシリテーション実践はどのようなものでしたか?

多様な経験があるでしょうが、とくに今回のテーマである「介護」に絞って教えてください。

ちびまり:

はい、まずは、「自分事」としての実践です。私の父は50代後半で倒れ半身麻痺になりました。

その後、2011年に亡くなるまで、胃ろう造設や緊急手術など、家族として「選択」を迫られる場を何度も経験しました。

また、介護・医療関係者との話し合いの場にも家族として参加をしました。

介護には「これが正しい」という正解はありません。当事者が認知症で判断が出来ない場合、家族は常に「何を選択すればよいのか」と悩みます。

また、家族で合意できず、話し合いで傷つけ合い、その後の家族関係まで損なうこともあります。

ある日、父の腸が破れて緊急手術が必要になりました。

そのとき、手術のために人工呼吸器を装着するか、手術をしないか(その場合は助からない)で家族がふたつに割れました。

父が認知症になる前に人工呼吸器の装着はしないでくれという文章を書いていたからです。

医師は「ご家族で急いで決めてください」と家族にお任せ、看護師長は「お父さんもここまで頑張ったのですから、もう…」との意見で、医療者は両者とも家族の話し合いを支援するというスタンスではありませんでした。

私は家族に「今、手術をするか、しないかという議論をしているけれど、私たちはお父さんに何をしてあげたいのだろう」と問いかけました。

そこから話し合いの流れが変わり、全員が納得して手術をお願いしました。家族の関係は継続的なものです。「結論」そのものも大切ですが「結論までの対話の質」によっては、家族関係が傷ついてしまいます。

ただ、私もひとりの家族として「意見」はあります。なので、中立的なファシリテーター役が精神的に辛いときもありました。

つなぎ隊:

そうでしたか。大変難しい状況ですね。もし自分自身が同じような場に居合わせたら、そんな風にできるかな・・・と思ってしまいました。

ちびまりは、それからどんな風に考えるようになりましたか?

ちびまり:

この経験を通して、正解のない介護・医療の現場では、家族が大切に思っていることを引き出し納得がいく合意を促すことの大切さがわかりました。そして、そのような支援者として「介護・医療・福祉」のプロにファシリテーションのスキルとマインドをもってほしいと思うようになったのです。

そのため、地域包括支援センター、ケアマネージャー、ドクター、看護師など介護・医療関係のファシリテーション研修の講師は、依頼があれば喜んで引き受けています。

また、地域での多職種連携会議や介護家族のみなさんの話し合い、介護と医療をつなぐ話し合いなどの企画運営をしています。

つなぎ隊:

なるほど・・・、まさにファシリテーションが必要になる話合いの場ですね。たとえば、多職種連携に対しては、どんなアプローチをされてますか?

ちびまり:

では具体的な事例をご紹介しますね。

伊豆市で計3回「多職種連携のための研修会」を開催しました。参加対象者は市内の医療関係者と介護関係者各25名(合計50名)です。

地域包括ケアシステムの構築のためには、医療ー介護の連携が必須なのですが、現実は、うまくコミュニケーションが取れていないことが課題となっています。

その課題を克服するため、「医療、介護関係者(多職種)の顔が見える関係づくりを強化する」「在宅医療の理解を深める」のふたつをこの研修会の目的としました。目的からも分かるように、研修と銘打っていますが、ほとんどがリアルな話し合いでの進行です。 ​​

​第1回のアウトカム(成果イメージ・ゴール)を「多職種連携について改めて考え、お互いのジレンマをちょっと共有できたと思えている」と設定しました。

さらに進行は「医師が継続して参加したくなる場をつくること」を心がけました。

経験上、医師は参加型が苦手という傾向があるからです。

主催者側も、医師達は継続して参加してくれないのではと心配していました。

多職種連携の場には、まず、多職種のみなさんがいなければ始まりませんので「ぜひ次回も参加したい」と思ってもらえるようなプログラムデザインにしようと思いました。

プログラムデザインで意識したのはグループサイズです。

グループサイズを1人(ひとりで考える時間)から2人(ゆっくりとお互いをインタビューする時間)そして4人(お互いにインタビューした相手を紹介する)から全体(今日の感想を共有する)と徐々に関係性をつくるプログラムにしたのです。

主催者からは「あんな楽しそうに話すドクターの顔をはじめて見ました」と言ってもらえましたし、その後も全員が継続して参加してくれました。

つなぎ隊:

なるほど。苦手な人たちをその気にさせて、どうやって巻き込むか、そのヒントがプログラムデザインにありそうな気がしました。大変興味あるお話、ありがとうございました。

さて、今後、介護や福祉、医療関係者がどのようになっていくとよいと思っていますか?

ちびまり:

そうですね。「できるだけ住み慣れた地域や自宅で最後まで生活したい」という思いを地域で支える「地域包括ケア」が前進すると共に、介護・医療関係者に「ファシリテーション」が少しずつですが浸透してきていると感じています。

FAJでもファシリテーション活用支援プログラムの依頼を通じて、介護・福祉・医療関係者にファシリテーションが広がっています。

それに伴い「指示」でもなく「本人や家族に投げる」のでもなく「寄り添いながら促していく」ことに意義を感じてくれる人たちが増えていることを嬉しく思います。 介護・福祉・医療関係者にとって、当事者、家族、関係者を「つなぎ」「促す」ファシリテーションのスキルとマインドは必須だと思います。現場で起こる色々な出来事のたびに「ファシリテーション」を意識し、勇気をもってファシリテーターとして一歩踏み出してもらいたいと願っています。

つなぎ隊:

では最後に、ちびまりは、これからどのようにしてきたいですか?

今の想いを聞かせてください。

ちびまり:

子ども、障がい者、子育て中の親、高齢者、外国人など、誰でもが安心して生活できる「地域づくり」のために「つなぐ」仲間をもっともっと増やしていきたいです。

時々、同じ地域のボランティア団体で「環境問題」「子育て」「若者の居場所づくり」「地域医療」など、それぞれの団体から「地域の課題解決の話し合い」の依頼がくることがあり「みんな一緒に話し合ったらいいのになぁ」と思うことがあります。

よく行政は縦割りだと言われますが、ボランティア団体も同じだなぁと思うことがあるのです。そんなときは「他の団体にも声をかけてみませんか?」と提案します。

私が、分野を越えて話し合い、お互いが連携できるための「つなぎ役」になれれば嬉しいです。 そしてFAJ会員のみなさんにも、職場やFAJの活動にプラスして、様々な地域でのファシリテーター役を担っていただければ嬉しいので、そのための相談は喜んでのります!

つなぎ隊:

あちこちで困難な話合いの場面は多くなり、私達もファシリテーターの重要性は、ますます高くなってくると思っています。介護・福祉・医療関係者の皆さんは、是非相談されるとよいのではと感じました。

それから、ちびまりの今日の話を聞いて、改めて誰もが安心して生活できる「地域づくり」のために「つなぐ」仲間を増やしていきたい。そう、私達もつなぎ隊として、ファシリテーションをベースとした連携と創造的な話合いの場を増やしていきたいと思いました。

今日は本当に忙しい合間を縫ってのインタビューにご協力頂き、ありがとうございました。

鈴木まり子 1960年生まれ。静岡県浜松市在住。ひとりひとりが「尊重され、存在できる」場づくりを目指し、企業、行政、学校、医療、介護、NPOなど多様な分野において、会議、話し合い、ワークショップ等数多くの経験を持つ。 また、「ファシリテーション」「コーディネーション」「キャリアデザイン」研修を企画し全国で実施、大学でファシリテーションの授業も担当している。 日本ファシリテーション協会で「ちびまり」の愛称で呼ばれる。理事、副会長を経て現在はフェロー。2011年3月より災害復興支援室にて活動。

出版書籍: 

Information:全国の介護・福祉・医療関係のFAJ会員のみなさん必見!!

ちびまりが12月5日(土)都内で開催される「地域づくりワークショップ」~地域包括ケアシステムの構築に向けて~のお手伝いをします。このワークショップでは、FAJが協力しています。

募集対象は、

・FAJ会員

・介護、福祉、医療関係者でお手伝いいただける方

です。

詳しくはこちら


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